クリスマスも、バレンタインも言えなかった。
光くんに好きって言えなかった。
クラスでは何故かわたしが謙也先輩を好きということになってて。
でも、全然そんなことなくて。
わたしが好きなのは光くんで。
それなのに、言えない。
光くんはまだわたしの事好きでいてくれるかな?
時間が経つにつれて、もっと早く言えば良かったって。
光くんの気持ちが変わる前に言えば良かったって、いつもそう思って。
そう思ってる間も、どんどん時間だけが過ぎて、どんどん言いづらくなって。
わたしと光くんはずっと、変わらなかった。
ずっと同じ距離。
いつも一緒に居るのに、光くんの考えてることなんてわからない。
きっと、光くんも同じ。
光くんはいつもいつもわたしの考えてることをなんとなくわかってくれたりするけど、きっと違う。
そういうのじゃない。
だってそれならきっとわたしの気持ち、わかるもん。
それともわかっててスルー?
やっぱりわたしのこと好きじゃなくなっちゃった?
って、この繰り返し。
もう何回同じことを頭の中で考えて、落ち込んで、悲しくなってるんだろう。
「財前くんって甘いもの好きなんやー意外!」
「ウチのチョコも食べてな?財前くんのファンとしてめっちゃ気合入れて作ったんやで!」
「財前くんやっぱ1年の中じゃダントツ人気やんな」
バレンタインはあっという間だった。
準備は1週間前から何をあげようとかラッピングはどうしようとかなんて言って渡そうとか。
とにかくいっぱいいっぱい考えた。
なかなか寝れないくらいには緊張してた。
でも、わたしのバレンタインは一瞬で終わった。一瞬で。
「光くんおはよう」
「おはよ。うわ、なんやそのチョコの量」
「こっちがテニス部の分で、こっちがクラスの子にあげる分だよ!いっぱい作った!過去最高!」
「作りすぎや。謙也さんとかチロルチョコ1個あげとけばええのに」
紙袋2つ分のチョコに呆れられながらも普通にいつも通り朝練に向かうわたしたち。
このときわたしはいつ渡そうかなとか、もう今渡しちゃったほうがいいかもとかそんなことで頭がいっぱいだった。
でも、光くんがテニス部の人に渡すチョコが入った紙袋を漁り始めるからわたしはすっごく慌てた。
「テニス部って俺の分もあるやろ?今食べる」
「い、いま!?あ、違うの!光くんの分はこっち!」
「え…」って少し驚いた表情の光くんに普通にチョコを渡しちゃったわたし。
しかも、予定が狂いまくってテンパっていた。
とってもテンパっていた。
「なんで…俺のだけなんか豪華なん?」って聞いた光くんに対して
「ひ、光くんにはいつもお世話になってるから!」って、言ってしまった。
ここでちゃんと告白できていたら…。
そもそもここでちゃんと告白するつもりだったのに。
チョコをもう渡しち痰チたから告白しようにもなんだかもう出来なくて、結局ダメだった。
教室で他の子からチョコを貰う光くんをただただ悲しく眺めてるだけのバレンタインだった。
バレンタインで改めて思ったけど、やっぱり光くんはモテる。
告白とか、すごいされてた。
光くんは甘いもの好きだからチョコは普通に貰ってたけど、告白した子からは貰わなかったみたい。
あの日何人の子が振られたんだろう。
もしかしたらわたしも告白してたら振れらてたかもしれないって思ったらすっごく怖かった。
告白しなくてよかったのかもとかちょっと思っちゃったりした。
もう、光くんがわたしの事を好きだっていうのを聞いてから半年も経っちゃった。
今日から4月。
この半年の間に友達カップルは付き合ったり別れたり、そんなのの繰り返し。
別れたと思ったらすぐに他の人と付き合って、また別れて。
半年って結構長い。
人の気持ちなんて、半年もあれば変わる。何回でも変わる。
人それぞれだけど。
わたしはこの半年で光くんを好きになった。
やっぱり、変わった。
だから光くんの気持ちが変わってても不思議じゃないの。
光くんが他の子を好きになってても仕方がないの。
告白しなきゃっていつも思ってる。
でも、もし光くんがもうわたしの事好きじゃなかったら…。
告白してから気まずくなる。
光くんと一緒に居るの、辛くなる。
家が隣だから会わないようになんてできない。
臆病だ、わたしは。
逃げ道がないと、告白出来ないんだから。
今日だけ使える言い訳。
4月1日だけ使えるわたしの逃げ道。
嘘をついてもいい日だから。
告白して、断られたら嘘だって言おう。
エイプリールフールだよって。
そうすれば、気まずくなんてならないから。
もう、そうでもしないと…言えないから。
「明日クラス張り出されるらしいで。謙也さんが言っとったわ。毎年4月2日に新しいクラス張り出されるって」
部活は午前で終わって、午後からはいつも通り光くんの部屋で雑誌を読むわたし。
光くんはいつもわたしを放ってパソコンしたり、自分のしたいことをしてる。
今日もわたしの方には目を向けないで、パソコンをしながらわたしに話しかけてくる。
ねえ、光くん。
今日はね、嘘をついてもいい日なんだよ?
だから、これから言う事は嘘じゃないけど…。
好きっていうのは嘘だよっていう、嘘をつかせてね。
きっとわたしは好きって言ったあと、光くんの反応とか見てる余裕もなく嘘って言っちゃうから。
嘘つく、ね。
ごめんね。
「光くん、あのね。あのね…わたし、光くんのことが、好き」
雑誌を読んでるふりをしながら、突然に言った。本当に突然に。
きっとわたしの顔は光くんからは雑誌で隠れて見えない。
わたしからも、光くんの顔は見えない。
急に部屋がしんと静まり返ったような感覚。
わたしは慌てて雑誌から顔を出して笑った。
雑誌がよれる音が一瞬の沈黙を破った。
もう、泣きそうだった。
言わなきゃよかったって、思った。
嘘だよっていうくらいなら…言わなきゃよかった。
「なん、て…ね。実はこれね…」
嘘なの。
そう、言おうとした。
でも…言わなかった。
言えなかった。
いつの間にかわたしのすぐ前まで来てた光くんの左手が、わたしの口を覆っていたから。
「嘘とか、言わせんで」
そういって、ぱっと手を離して。
少し控えめに抱き寄せられた。
光くんにこんなふうにされるのは初めてだった。
すごくドキドキしてる、わたしも、光くんも。
「好きや、。好きや。だから、嘘とか…言うな」
自然と、涙が出た。
光くんの服をきゅっと握って、溢れる涙はそのままで。
泣いた。
これで2回目だ、光くんの前で泣くのは。
嬉しかった。
でもそれ以上に安心した。
苦しかった。好きなのに、言えなくて。
光くんがもうわたしのことを好きじゃなかったらどうしようって、そればかり考えて。
不安で不安で、怖くて、仕方がなかった。
普段考えない事ばっかり考えた。
いらないこともいっぱい考えた。
それが一瞬にして、なくなったんだ。
やっぱり、言ってよかった。
逃げ道を用意してでもなんでも、言ってよかった。
言わなきゃ、なにも変わらなかった。
光くんが好き。
好き。