「ちゃん絶対好きな人出来たと思うんやけど」
「いままで好きな人居る?って聞いてもあんな顔真っ赤にしたことなんてなかったし」
「誰なんやろー?聞いても教えてくれへんし!」
「そんなん財前くんくらいにしか教えないやろー」
「まあそれもそうやな」
最近クラスの女子の間ではこの話題でやたら盛り上がってる。
に好きな人が出来たらしいということ。
これは噂なんかではない。
俺も、そう思う。
雑誌の恋愛コーナーだけ読んでる時間が異様に長い。
俺が気づかないとでも思ってるんか。
しかも恋のおまじない系は何故かユウジ先輩と一緒に実行している。
だから最近この二人は仲がいい。
でも多分の好きな人はユウジ先輩ではない。
というか好きな人と一緒に雑誌に載ってるおまじないやるとか…ないやろ。
どうせ小春先輩ラブなユウジ先輩と一緒に恋愛成就のおまじないやって盛り上がってるとかそんな所やと思う。
の好きな人候補に同じクラスの男子とか、その辺は全くあがってこない。
関わり薄いからな、男子と。
そういう風に仕向けてるのは俺やけど。
それでもあいつに片思いしてる奴がいっぱい居るのも知ってるけど。
がちゃんと名前フルネームで覚えてる男子なんて数える程やからその辺の奴は除外される。
「財前くんの事好きなんちゃう?」
「えーないやろ!ちゃんと財前くんってもう小5からずっとあんな感じなんやろ?」
「あーそっか、確かになんでいま?って感じやしな」
「それに財前くんってちゃんの保護者やんな?好きとかもう通り越してる存在やん」
「いえてるわー」
同時にこんなことも言われてて俺の心中ズタボロや。
最近との距離がなんとも言えなく微妙。
部長みたいに避けられてるとかそんなあからさまやないけど、なんかぎこちない。
好きだから意識されてあいつが変なのか、それとも好きな人が出来て隣に俺が居るのが気まずいのか。
前者であってほしいとは思うけど、自信はない。
クラスの女子的にはありえないみたいやし。
普通にテンション下がるわ。下がるどころの話やないわ。
「やっぱり忍足先輩やと思う!」
「ウチもそう思う!ミクスドペアやし」
「秋の大会は関西大会までいったし」
「仲ええもんな」
いや、ないやろ。
ないない。ない…。
謙也さんとやで?
ただのパートナーやん…。
どう見たって。
それなら俺の方が仲ええし。
「ちゃん財前くんにはなんかーなんて言うん?ほら…」
「ボディータッチとかしないやん?」
「そう!それや!でも忍足先輩には普通にくっついてるやん」
「やっぱそれが保護者と好きな人の違いやねー」
俺も気にしてることやからそっとしておいて欲しいんやけどホンマ…。
女子こわ…。
さっきからほんまなんなん?
確かにそうやけど。
でも、パートナーやし。
ほら、小春先輩とユウジ先輩がダブルスパートナーでずっとくっついてるのと同じ原理やろ。
大人しく聞いてるのも腹立ってくるわ。
俺の中では謙也さん説は除外や除外。
たぶん…ない。たぶん…。
さっきから話題の中心に居る張本人をチラッと横目で伺うと固まっていた。
それはもうカチコチに。
相当キてるな。重症や。
仕方がないから外に連れ出してやろうかと思って声を掛けようとしたら突然立ち上がった。
「の、飲み物、買ってくる」
「ん、今ちょうど俺も行くところやったから俺も行く」
もついに耐え切れなくなったらしい。
慌てて鞄の中から財布を探しているがなんか、可哀想とも思えてきて。
わざわざこいつが外に行かないといけないほどクラスではネタにされてる。
確かに俺も気になるけど、そういう風に面白がられてるのは気に食わない。
謙也さんとか勝手に決めつけてるの気に食わない。
まあ、の場合嫌というか恥ずかしくて嫌とかそんなんだと思うけど。
鞄を漁ってたの手がピタリと止まって、ゆっくりとこちらのほうに顔が向いてくる。
ああ…。
「財布、忘れたん?」
どうせそんなことだろうと聞いてみたら無言でこくこくと頷いた。
ほんまアホやろこいつ。
飲み物を買いに行くとか言って財布忘れるとか…。
朝練行くとき寒くなってきたから今日から帰り道に肉まん買って帰るーとか言うてたのはどこのどいつや。
「しゃーないから財前銀行が特別に今日だけ銀行に手貸したるわ」
「光くん…!」
「帰りの肉まんも奢ったる。その代り明日の昼飯楽しみにしてるで」
「うん、たまご焼き?」
「おかずの種類が豊富ならなんでもええわ」
「うん!」
なんや、思ってるより普通やん別に。
俺が気にしすぎてたっていうのもあるんやろうけど。
でも、には好きな人が出来て。
いつも通りだけど、やっぱり違う。
やっぱ、いつまでもこの関係では居られないんやろなって思って。
これ以上の関係をもちろん望んでるけど…。
今の関係以下にはなりたくない。
告白とか、もう何回考えたかわからんくらいには考えた。
今まではに告っても混乱するだけとか言うてたけど。
もうそんなことも言えない。
それなのに一歩踏み出せないのは、近づきすぎたんやろな。
けど、俺ら今まで恋愛関係の話とかしたことなかったやろ?
近づきすぎたとは自分でも思うけど、やっぱこれ以上が欲しくて。
俺がお前の一番近くに居る人になりたいから。
だから、もう一歩。
もう、逃げられなくなるくらいに。
近くに居ってもええやろ?
「なあ、」
「なに?」
このくらい、聞いてもええやろ?
なあ。
「好きな人、居るん?」
めっちゃ、驚いてる。
まあ、そりゃ驚くわな。
今までにこういうこと聞いたこと、ないし。
こういうこと、真面目に話したこともない。
また、一歩近づいた。
これ以上近づいたら逃げられるんやないかと思ってた。
でも、でも…。
「居ちゃ、いけない…かな」
なんで、そんな切ない顔するんや。
逃げはしなかった。
でも、俺が欲しい答えやない。
「別に、ええやん。好きな人くらい、居っても…」
やっぱ、このままじゃあかんな。
誰よりも近くに居るのに。
恋愛面では、きっと他の奴らと対して変わらん。
あーあ、告白とか…ハードル高いわ。
俺は、いつ告白するつもりやったんやろ。
が恋愛とかそういうの考えるようになってからとか思ってたけど。
もう、考えてるやん。
好きな人、居るやん。
逆に、遅かったんちゃう?
に好きな人が出来る前に告ってたほうが、楽やん。楽やったやん。
自分がヘタレすぎてて腹立つわ。
幼馴染でもないのに。
なに少女漫画の幼馴染みたいな恋愛してるんや俺は。
が、俺の事好きってなんとなくでもわかればええのに。
それだけで、動けるのに。
でも、少し。
少しくらい……。