「なに、お前今日日直やったん?…ノート、半分持つ」
この人、財前光くんはどうやらわたしのことが…
好き、みたいなのです。
わたしがそのことを知っているとは知らない彼はいつも通り口は悪いけど優しいです。
今みたいに日直だからと先生に教室までみんなが提出したノートを持って行ってるときも声をかけてくれます。
わたしだけでしょうか。
「だ、大丈夫!わたし、ノート運び…趣味だからっ!」
こんなにテンパっているのは。
「はぁ…」
知らないうちに溜息がでてくる。
さっきは絶対変な人だと思われた。
光くんのわたしへのイメージに絶対変人って追加された。
結局光くんの衝撃的事実を知ってしまってから、だれにもそのことを言えないわたし。
光くん本人になんて絶対に言えないし、でも他の人に相談もできない。
どうやって相談したらいいのかわからない。
「光くんがわたしのこと好きみたいなんですけど、わたしどうしたらいいですか!?」
なんて言えるわけがない。
なんかちょっとムカツクし。
だから、わたしも自分のことを考えてみようと思ってここ数日光くんのことが好きなのか考えているけど一向に答えは出ない。
そもそも好きとかそういうのよくわからないし。
光くんとは一緒に居て楽しいし、なんか落ち着くけど、それは謙也先輩も同じだし。
考えても埒が明かないので深く考えないようにしよう!って決めたのは昨日のことで。
でもやっぱり、恥ずかしくて。
さっきみたいにテンパってしまう。
やっぱり、気になっちゃうし。
恥ずかしいけどいっぱいいっぱい声をかけたくなる。
いままでちゃんと見てこなかったから。
わたしが話かけたとき、どんな反応をするのか。
わたしといるとき、どんな顔をしてるのか。
気になる、知りたい。
って、これってもしかしてわたしいま光くんの心をもてあそんでる!?
じゃあ、じゃあ…わたしは魔性の女?
魔性の女デビュー?
もてあそんでるつもりなんてないよ、ないんだよ。
「なんや、さっきからジロジロと。見物料とるで」
最近、光くんがすごく格好よく見える。
いままでそんなに意識してなかったけど、なんでだろう。
なんでいままで気づかなかったんだろう。
光くんは格好いい。
ファンが、居るくらいに…。
「無視すんなや。アホ」
「ご、ごめん。ひ、光くんお洒落だなって思って」
「………いつもと同じやけど」
「うん、だから…今更なんだけどね」
格好いいと思って見とれてたなんて言えない。
光くんのこと考えてたら自然と見つめてたなんて言えない。
格好いいなんて、恥ずかしくてやチぱり言えない。
言えなかった。
だから咄嗟に出たのは少し誤魔化したようなお洒落だねって言葉。
こんなこと、言ったことないからやっぱりなんか恥ずかしくなってきた。
「…アホか」
そういってそっぽを向いた光くん。
あ、機嫌悪くしちゃった?
光くんはよく返事が面倒になるとこうやってそっぽを向いてしまう。
結構難しい人…って、あれ?
あれ?
光くん顔赤い…?
もしかして、光くん…照れ、てる?
照れてる、かも。
今まで、会話が面倒になったから顔を逸らされてたんだと思ってた。
いつも、こうとは限らないけど。
でも、いまきっと光くんはわたしが言ったことに照れた。
照れてくれた。
嬉しい。
よくわからないけどすごく、すごく嬉しい。
「光くん!」
「ん?」
「もしかして、照れた?嬉しい?」
自慢気に聞いてみたら高速チョップがわたしの頭に直撃した。
加減はしてくれているけど、不意打ちだったから舌を噛みそうになった。
チョップしなくたって…いいのに。
「アホ」
光くんはやっぱり、光くんで。
口は悪いけど、すごく優しくて。
でもいままでわたしが見てた光くんといまの光くんはまた別で。
照れてるのを誤魔化そうとするのも光くん。
わたしの中の新しい光くん。
もしかしたら、自分のことを考えるんじゃなくて、光くんのことを考えればいいのかもしれない。
好きってきっと、そういうこと。
きっと、きっとそうだ。