が……泣いて、る?
俺は予想もしていなかった事態に柄にもなく動揺してしまった。
さっきまで、笑ってたやん。
こいつはいつもそうや。
人前では絶対に泣かない。
「ひか、るくん」
「今日の試合………」
今日は地区大会だった。
関西大会常連校のウチは地区大会で負けるなんてまずない。
でも、負けた。
男子の団体やなくて、ミクスド。
と謙也さんは今日の地区大会で2回戦敗退。
能力的には謙也さんは男子テニス部のレギュラーやし、も先輩たちに関西でも普通に通用するレベルと言われるほどだった。
地区大会で負けるレベルじゃない。
敗因は、やっぱり。
トラウマはなかなか消せないらしい。
1回戦目はガチガチで、どこか怯えていたように見えた。
でも勝った。
2回戦目もやっぱり動きは最悪やった。
しかもの悪い癖が痣になった。
が今までやってきたテニスはみんなで楽しくやるテニス。
テニススクールでくらい上手い奴がごろごろ居るとは思えない。
ラリーが続くように相手の取りやすいコースへ返す。
相手にとってはいいカモや。
ばかり狙われるのは当然やった。
5ー1で負けそうになったとき、が一瞬泣きそうになった。
でもは人前で泣かない、絶対に。
人前で泣いてるところなんて見たことがない。
泣きそうになったのも一瞬で、きっと見てる人でもほとんど気づいてない。
でも、謙也さんは気づいとった。
の頭をわしゃわしゃってかき回してなにか言ってた。
聞こえなかったけど。
そしたらがコートの中でいつもの締まりのないへにゃっとした笑顔を見せた。
正直驚いた。
なんとなく、どうしてが謙也さんとペアを組むと言ったのが分かった気がした。
泣きそうだったの表情が一変して、いきなり挽回し始めた。
結果として負けたけど、スコアは7ー5。
誰も負けても二人を責めなかった。
試合が終わって、謙也さんとは悔しがってたけど楽しそうやったから。
責めるどころかみんなが公式戦を克服したー!って笑ってた。
も、もちろん笑ってた。
楽しそうに。
だから、驚いてる。
俺の部屋に置きっぱなしののファッション雑誌を返しにのところに行っただけ。
まさか泣いてるなんて思わないやん。
「わたし……」
「ん?」
「謙也先輩とペア組んでていいのかな」
どういう意味や。
何がどうなってそういう考えに至ったのかが知りたい。
でもこいつがこんな風に弱音を見せるなんてこと自体初めてなんじゃないかというほど珍しい。
頑張るって言ってたが不意に浮かんだ。
謙也さんと一緒に頑張るんやなかったんか。
そう、言うたやん。
「がそういうなら、別に俺でもええんやで……ペア」
俺がそう言うとの泣きっ面が意外そうな顔をしてこっちを見てきた。
目が合って、がじっと俺を見てくる。
なんか、気まずいやん。
いつまでこのままで居る気やこいつ。
とか思い始めた頃、やっとが動いた。
体育座りしてた膝に顔を埋めてもごもごとなにか言っている。
「謙也先輩と頑張る。……ありがとう」
そんなん分かってるわ。
分かってる、最初から分かってる。
ありがとうとか言うなや。
泣きべそかいてるからいつにもましてかわええとか一瞬でも思った自分が…ああ、もうええ。
「そんなん最初から分かってるわ、アホ」
いつもの皮肉ったらしい口調で言うと、は泣きっ面で笑顔を見せた。
人前で泣かないこいつが、俺が来ても気を遣わなかったことが嬉しかった。
不謹慎かもしれないけど。
悩みを言わないこいつが、一言でも俺に言ってくれたことが嬉しかった。
俺、重傷やな。
謙也さんとペアでも
ま、しゃーないわ。