「ひ、光くん機嫌悪い……?」
よう分かっとるやないか。
お前が言う通りここ最近すこぶる機嫌が悪い。
お前のせいで。
立海との合同合宿で俺は切原赤也という存在を知った。
はそいつのことが苦手らしい。
その苦手な原因を同じ立海の柳さんという1こ上の人に謙也さんが教えて貰ったのを謙也さんから聞いた。
が切原の事を苦手視してるのは昔公式戦で一度だけが切原との試合で勝ったことが原因らしい。
小4の時とはいえ女に負けたというのが屈辱的だったらしく、同じテニススクールに通っていた切原がスクール内の草試合でにラフプレーをした。
と、聞いた。
それがトラウマとなっているということも。
切原も何か色々事情があるらしく、そのときのことはよく覚えていないらしい。
それからは公式試合に出なくなった。
ここまでが柳さんからの情報。
それでそれを聞いた謙也さんがに聞いた話によると、が中学でテニス部に入らなかったのもそれが原因らしい。
公式戦に出たくないから。
で、それを聞いた部員がそのトラウマをなんとかしてやろー!的なノリで合宿が終わってもを部活に引きずって連れてきている。
この人たちに一度目を付けられたらもうどうにもならんことは俺が一番知ってる。
そこだけは同情したるわ。
さらに半強制的にテニス部に引きずり込まれたの事情を部長がオサムちゃんに話した。
まあ、部長やし。
マネの事報告するんはわかる。
でもオサムちゃんが何を思ったのかをミクスド大会に出す。
とか言い出してが謙也さんとペア組むことになった。
今度の大会に個人枠で出るらしい。
正直この件に関しては俺は蚊帳の外。
なにが起きてるのかさっぱりわからん。
はでそんなん断ると思ったらやる気らしい。
『謙也先輩と一緒に頑張るって決めたの』
とか言い出したときはが見てないところで謙也さんをいじめたりもした。
なんで謙也さんなんや。
1年同士のほうが気使わんし、俺のほうがと息合わせられる自信もある。
なんで、なんで。
俺じゃない。
謙也さんと何があったん。
何でなにも言わないん。
この一件に関して置いてけぼり状態なのが一番腹立つわ。
先輩らで勝手に決めて勝手に進めて。
ほんま、ウザ……。
そんなことより来週からの地区大会に専念しろと言ってやりたい。
レギュラーやろ、あのスピード狂が。
「光くん……?」
「何や」
「も、もうすぐ地区大会だね!」
「俺レギュラーやないし」
「で、でもでも初めての大会だよ」
「だから?」
練習の帰り。
家が隣だから当然一緒に帰る。
キツく当たってるなんて自分でも分かってる。
少しは何で怒ってるのか考えろやボケ。
なんで俺ばっかこんな好きなんや。
あーあ、片思いとか柄やない。
俺、ほんまダサいわ。
「あ、あのね!光くん」
イライラしとった俺の隣から目の前に出てきてが突然俺と向かい合った。
は?なに?
そんな顔をしてみせたら小さな封筒くらいの紙袋をズイッと俺の方に差し出してきた。
なんや、これ。
とりあえず受け取ってみた。
俺が紙袋を受け取るとは顔を真っ赤にしてなんかそわそわしとる。
え、なに。
「なに、これ」
「つ、作ってみました!」
「いや、そうやなくて……。中身、見てええ?」
俺が質問したのと別の返答がきたから中身を見ることにした。
に中身をみてもいいかと聞いたら一度だけ控えめに頷いた。
なんか、かわええとか不覚にも思ってしまった自分が憎い。
紙袋をあけると、中には赤いミサンガ。
思わずジーっと見てしまった。
「あの、部員の人には内緒で。えっと、光くんがテニス部に入った頃から作ってたんだけど……」
「は、ほんま?」
「う、ん。でもマネージャーやることになっちゃって、その、部員みんなにはあげられないし。だから、その…」
つまり、これはマネージャーから俺にという事ではなく、から俺に。
俺だけに。
やばい、めっちゃ嬉しい。
なんやねんこいつ。
「光くん赤好きだから赤にしてみました!」
「赤やないし、カーマインや。いい加減覚えろアホ」
「だって違いがわからないんだもん!」
こいつはズルい。
これだから離れられない。
こんな鈍感女より他の子の方がよっぽど楽や。
でもからは抜け出せそうにない。
ズルい。
謙也さんとペア組むとかどうでもええわ。
とか思ってる俺も単純やけど。
あー、ほんま