「え?柳の好きなタイプ?」
部活が終わったあとに、頑張って聞いてみた。
チア部の先輩たちに。
頑張った、けど…。
先輩たちは目をぱちぱちさせて、動いてくれない。
と、思ったらいっせいに取り囲まれた。
遠くにいた先輩も、そして遅れて同学年も、後輩も。
「!もしかして、柳に…」
「ほ、惚れたの!?ついに…ついに?」
「どうなの?好きになっちゃったのっ?」
どうなのどうなのと質問攻めされて怖いのと恥ずかしいのがごちゃごちゃになった。
誰に答えていいのかわからなくてわたわたしているとそれを察したのか急に静かになった。
静かになったけど、目線はみんなこっちを向いていて、息がつまりそうになった。
ちゃんと言葉が出てこなくて、一度だけ頷くことしか出来なかった。
顔をあげると先輩が飛びついてきた。
そして、それに続いて他の先輩たちも。
「そっかー、そっかぁ。応援するよ」
「がこんなこと言うの初めてだもんね」
「このぽわぽわちょんに春が来るなんて…」
わしゃわしゃっと頭を撫でられたり、それに続いて髪をボサボサにされたけど、みんな優しかった。
それが嬉しくて、ついつい顔が緩んでしまう。
「それじゃあ今日も気合入れて支度しないと!」
と言って髪を整えてくれたりしてくれるチア部のみんなが本当に好きなんだと改めて思った。
きっとこの人たちじゃなかったら報告しなかったと思う。
柳先輩を好きになったのも、チア部の人がこんなに持ち上げてくれたからだと思う。
そうじゃなかったら気づかなかったかもしれない。
あの日一緒に帰らなければシュシュは貰えなかった。
県大会の応援の時、きっとわたしはシュシュを付けなかった。
お返しもあげなかったかもしれない。
そう思うとチア部のみんなには感謝してもしきれなかった。
だからみんながこんな風に応援してくれるのがすごくすごく嬉しかった。
「はぁー…」
「元気ないね。そんなにショック?」
「だって、先輩たちがせっかく髪の毛とかやってくれたのに」
「テニス部関東大会前だからねー」
「うん」
昼休み。
昨日は結局柳先輩とは一緒に帰れなかった。
好きになってから初めて一緒に帰れると思って、すごく楽しみだったのに。
そんなに甘くなかった。
わたしと柳先輩って本当に接点がないんだなって、ちょっとショックだった。
帰り道が同じなだけ。
下校時間が被らないと一緒に帰ることはできない。
一緒に帰る約束なんて勿論してないから待ってることも出来ない。
ただ、それだけの関係でしかないんだって。
「あれ?どっか行くの?」
「先輩に渡して欲しいってさっき顧問に頼まれた」
「んーいってらー」
お弁当を片付けて友達に手を振って教室を出た。
さっき顧問の先生に会って今日の練習メニューを渡された。
正直3年生の階ってすごく行きづらいというか居づらいというか。
わたしはちょっと苦手。
階段を上ると、もうすでに2年生の階となんだか少し雰囲気が違う気がする。
先輩はB組。
階段を上ってA組の隣の教室。
結構すぐそば。
そういえば柳先輩って何組なんだろう?
聞くの忘れちゃった。
って、思っていたら少し遠くに柳先輩が居た。
教室の前のロッカーから次の授業の教材を準備してるんだと思う。
校内で柳先輩を見ることは少ない。
だから、知らなかった。
柳先輩が3年生の女の先輩と話している。
テニス部の人はモテる。
それは知ってる。
でも周りに柳先輩の事を本気で好きな人が居なかったから。
柳先輩がモテてる実感はなかった。
わたしの勝手なイメージで、柳先輩はあんまり女子と話をしない人だと思ってた。
落ち着いていて、大人っぽくて、どこか近寄りにくいって。
みんなそう思ってるって思ってた。
どこかで、安心してた。
2人で帰れて羨ましいって言われてたから。
他の人とは違うってどこかで思ってた。
でも、わたしと柳先輩は帰り道が同じな関係でしかないんだ。
こうやって校内で見かけて、声を掛けることも不自然な関係なんだ。
遠い。
どうしようもなく。
「あ、だ。どうしたのー?」
ハッと我に返ったら、そういえばB組の教室の前に居たわたし。
先輩がわたしを見つけて出てきてくれた。
先生から預かったメニューの紙を渡すと「ご苦労様ー」って言ってメニューを見ている先輩。
「あ!だー!」
「うそ!ほんとだーが居るー!ちょうどいいところに」
他のチア部の先輩たちが隣の教室から出てきた。
わたしの所に来るなり耳元でごにょごにょと喋り始める。
それに対して先輩も「なになに?」ってわたしと一緒になって聞いている。
「柳の好きなタイプさ…」
「ああ、シュシュあげたくなるような子でしょ?」
「そ、そうなんですか!?先輩情報マン!」
「いやいや、それただの妄想だから。間違ってはいないと思うけど」
「じゃ、じゃあわたし当てはまってますよね?貰いました!」
「うん、お前は今柳が女子にホイホイシュシュあげるような奴だと思ったでしょ。違うから。誰だよそれ」
「?」
「ごめんね、なんでもないよ。気にしないで」
妄想だとか、間違ってないとか、どっちかよくわからない。
本人に聞こうと思っても言った本人は「ホイホイシュシュ柳…!」って笑ってて話せそうにない。
まだ話は終わってないらしくて、また先輩たちに耳を貸した。
「で、柳の好きなタイプなんだけどさ。計算高い女だって」
「計算高い…?」
「そう、だから今日からは5桁のかけ算を暗算で出来るように頑張ろう!手伝うから!」
「ご、5桁…?」
どうしよう、出来る自信がない…!
って思った瞬間また先輩がふきだした。
「柳には出来て当たり前な世界みたいだから頑張って!」
「これで柳のハートを鷲づかみ!」
遠い。
やっぱり遠い。
どうしようもなく。
わたしが好きになった人は、わたしとは程遠い人でした。
(やばい、ほんとやばいーおバカやばいー)
(お前がやばいよ。いつまで笑ってんの)