「テニス部の決勝戦かー。きっとすごく早く終わるんだろうね、試合」
「ねー、応援の意味あるのかなって思えてくる」

テニス部県大会決勝。
チア部はどの部活の決勝戦も大体応援に行く。
もっと大きい大会だと初戦から応援したりもする。
でもまだ県大会。
だから決勝戦だけ。

「わたし、今日は新しいシュシュにするんだ」
「あ、それ可愛い!いいじゃん!似合う似合う〜」

今日はテニス部の応援にも行くけど、その前は部活なわたしたち。
ついさっき部活が終わって、これから会場に行くところ。
そういう場合は学校でユニフォームに着替えてから行くことが多い。
今日もそうだった。
練習ではつけないシュシュも、ほとんどみんなここで付けていく。
付けていくんだけど…。

「あれ?シュシュ付けないの?」

バスに乗り込んで移動している時に後ろに座っていた先輩がわたしの髪を少しだけ引っ張った。
「忘れたの?貸そうか?」と、聞いてきてくれた先輩にわたしは手に持っていたシュシュを見せた。
まだ袋から出していない、新品のシュシュ。

「なんだ、あるじゃんー。新しいのだね!可愛い可愛い!に似合うよそれ!」

「どうして付けないの?」と聞いてきた先輩に耳元まで顔を持って行ったわたし。
先輩も耳元に手を当てて話を聞いてくれるみたいだった。
「実は…このシュシュ、金曜日柳先輩と帰ったあの日に貰って……」
つけた方がいいのか迷ってて……と、恥ずかしさを我慢してそこまで言うと先輩が驚いたような顔をした。

「ええー!そのシュシュ柳から貰ったの!?ちょ…可愛いし、に似合うけど…これを買う柳……!」

先輩は多分バスに乗ってる人全員に聞こえるくらいの声で、お腹を抱えて笑っている。
他の人たちがその声で一斉にこちらを振り向いたからきっと、みんなに聞こえてる。みんなに…。

!柳から貰ったって!?」
がついに柳に貢がせた!」
「柳先輩ってこういうシュシュ付けてる子が好きなの?」
先輩いいなー」

先輩の方に助けを求めようとしたけど、相当ツボだったのかまだ笑っている。
そして、わたしの手に持っていたシュシュはいつの間にか先輩たちの手に渡り、わたしの頭に付いていた。

「応援、楽しみだね!」

先輩たちがにこにこ笑顔を向けてくれたけど、わたしは顔が熱くなって下に逸らした。

「頑張って応援しなくちゃね!ー!」

と、言っていたのが少し前の話。
あの時のテンションは今の先輩たちにはない。

「…試合終わるの早すぎじゃない?」
「わたしたち、居る意味あった?」

立海テニス部は県大会を圧倒的強さで優勝した。
本当にあっという間すぎて、初戦なのかと勘違いしたくらい。
応援といっても圧倒的すぎて、寧ろ相手に失礼なんじゃないかと思ってしまった。
今は予定より随分早かったけど撤収の準備をしている。
3年生はそのまま先にバスに戻る。
1年生が荷物を片付けて、2年生が忘れ物がないかチェックして帰るのがチア部の伝統。
部長は2年生と一緒にチェックをする。
荷物を着々と片付ける1年生を手伝ったり、見守ったりしているのが2年の仕事。

忘れ物がないか見渡しながらコートの周りを歩いていると、声を掛けれた。
落ち着いた声、柳先輩だ。
わたしが振り返ると少しだけ優しく笑った…気がした。

「応援、ありがとう」
「ありがとうございます。試合お疲れ様でした」

柳先輩はマメな人だ。
こうして御礼を言われるのは初めてじゃない。
毎試合後、こうして御礼を言ってくれる。
わたしが1年生のときからそうだった。
でも、正直こんな風に言葉を返したのは初めてだった。
今までは話したこともないし、軽く会釈をするだけだった。
こうしてお疲れ様でしたなんて言えたのは、きっと一緒に帰ったりして柳先輩に少しでも慣れてきたんだと思う。
相変わらず声を掛けられるとなにかしたのかと不安になってしまったりはしてしまうけど。

「それ、付けてくれたのか」
「あ、はい。せっかく、柳先輩がくれたので…」

正確には先輩達が付けたんだけど、言えなかった。
何故か恥ずかしくなって、また顔が熱くなりはじめた。
反応が気になってしまって柳先輩を見たら顎に手を当てて考えるようにこっちを向いていた。
こ、これはもしかしてまじまじと見られているのかもしれない…!
柳先輩はいつも目を瞑ってるからよくわからないけど、たぶん、見てる。
見られてる。

「やはり、似合っているな。良かった」

柔らかい声で柳先輩がこんなことを言うから、ぼっ!と火がついたように熱くなった。
顔を見られるのが恥ずかしかったのか、わたしは咄嗟に顔を隠した。腕で。
そのポーズを取ってから気づいた。
まるで鬼ごっこのバリア!みたいな構えをしている自分の行動を疑った。
両手で顔を覆うとか、そういう可愛らしい行動はできなかったのかと頭がパニックになった。
なにか、なにか言わなくちゃ。
なんていえばいいんだろう?
バリア!のポーズのまましばし止まったわたし。
ー!バス行くよー!」という声が後ろから聞こえて、わたしの体は咄嗟に動いた。
柳先輩に一礼してそのまま友達の方に走った。

ああ、もうわたしは最近どうかしてる。
柳先輩が関わるといつもこうだ。
何も言わないで、失礼なことしちゃった。
先輩たちにシュシュ変えた時に似合ってるって何回も言われてるのに。

どうして。
どうしてこんなに嬉しいんだろう。

、顔赤いよ?何かあった?)
(バ、バリア!)
(……大丈夫?)

その恋はまだ蕾

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