01.
「ったく、大事なもんだったら迂闊に離したりすんじゃねぇっつの」
ブツクサ言いながら浅い川辺に足をつっこみ、水を跳ねさせながら何かを探している青年。
下町、騎士団内の一部ではかの有名なユーリ・ローウェル。
帝都ザーフィアスの下町にある宿屋に厄介になりながら用心棒のようなものをして暮らしている。
困っている人を放っておけない性分な為、おそらくこうして川に入っているのは誰かの落し物でも探しているのだろう。
バシャバシャと水音を立てていた彼の動きがピタリと止まったかと思うと腕を川の中から引っ張り上げた。
「おっ、お宝発見ってか?」
川から引き揚げたブレスレットを眺めて満足そうな顔をするユーリ。
彼がふと顔をあげると橋の上に人が居るのが見えた。
「…下町のこんな所に貴族様がなんの用なんだか」
橋の上で手にしている何かをぼーっと眺めている女性は下町には場違いな綺麗で汚れを知らない白い洋服。
風になびいている綺麗な長いピンク色の髪、瞳は澄んだ緑色。
何から何まで上品でいかにも貴族様という感じの女性にユーリは首を傾げた。
こちらから視線を向けても全く目に入っていないのか先ほどから手に持ったものを眺めているだけ。
気にする事もないかとユーリがその場を立ち去ろうとしたとき
ビュオオオオオオッと音をたてて一際強い風が吹く。
帽子なんか被っていたら飛んでいってしまいそうなそんな風。
ユーリが目を開けた時、飛び込んできたのは橋の上から何か光る物が手から離れて慌てふためく女性の姿だった。
女性はすぐに橋から身を乗り出して手を伸ばした。
「おいおい」とユーリがぽつりと呟いた。
女性は手放してしまった光る物に手を伸ばしたのだが、もちろん届くわけもない。
しかし、女性は諦めるどころか更に身を乗り出す。
「やばいだろ」
そう口にしたときにはもう彼は走りだしていた。
「えっ!?ッ―」
彼女は身を乗り出しすぎてそのまま川へ急行落下していった。
ユーリはまず落ちてきた光る物をキャッチしてから彼女の落下地点まで爆走した。
走りだしたのが速かったからか、彼女が落ちてくる少し前にその場にいたユーリは難なく彼女を抱きとめた。
ユーリの腕の中に落下した彼女は目をギュっと瞑っていたが、なかなか来ない痛みに片目を恐る恐る開けた。
すると、知らない人の顔が目の前に。
「きゃあっ」
驚いて暴れまわるとユーリの腕の中から落下し、バシャンッと派手な水音をたてた。。
その反動でユーリもバランスを崩したのか、足を滑らせたのか川に尻餅をついてしまった。
そして、彼女が落下した反動で出来た水しぶきが頭の上からビシャッと掛かる。
呆れて声も出なかった。
「これじゃ、たちまち意味ねーな」
一言吐き捨てると起き上がって先ほど助け損ねた彼女に手を差し出す。
彼女は目をこすって水を手で拭っていたがユーリの手に気が付いて顔をあげた。
「大丈夫か?」
「あっ、はい…すみません、助けて頂いたのに」
ユーリの手を取って起き上がるとそのまま手に何かを握らされる。
「ほら、大事なもんなら離すなよ」
そう言って渡されたネックレスは先ほど彼女が身を乗り出してまで取ろうとしたネックレス。
それを見て彼女はほっと安心したような表情をみせた。
「ありがとうございます」
「たまたまここに居ただけだ、別に大したことはしてねえよ。にしても…」
「服、泥だらけになっちまったな」と呟くユーリにハッとなって自分の格好を見た彼女の顔がたちまち青ざめていく。
水浸しで白いドレスのような服はドロがついて見るからに滑稽極まりない上に水を被った為顔や髪にも泥がついていた。
「ど、どうしましょう…!これは洗えば落ちるのでしょうか?それとも茶色のドレスに…?」
これほどの洋服を身に纏っているお譲様なら平然とした顔で
「洋服なんていくらでも替えがありますわ」などというのかと思っていたユーリはなんだか拍子抜けだった。
まるで自分の洋服ではないみたいに汚してしまったことで慌てふためく彼女を見てユーリは思わず吹き出してしまった。
突然肩を揺らして笑い出したユーリに今にも泣きそうな彼女はもう何が何だかわからなかった。
「茶色のドレスはさすがにやめとけって」
「え、あ、でも…」
「待った。…取りあえず陸にあがろうぜ。いくらもう泥だらけっつってもこれ以上汚れるのは勘弁」
ユーリに指摘されて自分がまだ浅瀬とはいえ川の中にいることに気がついた彼女は頷いてドレスの裾を持ち上げた。
水と泥を吸って重たくなったドレスは少し歩き辛そうに見えたが、何とか陸地へ上がった彼女ととユーリ。
ぐちゃぁという音が聞こえそうな程泥が付いたドレスは陸に上がると猶更目立った。
ビュゥゥゥゥと風が吹くと、まだ暖かくなったばかりのこの季節では随分と寒かった。
「くしゅんっ」と控えめなくしゃみが聞こえたと思ってユーリが彼女の方を見ると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「とりあず、知り合いがやってる宿屋にでもいくか?そのままで居ると風邪ひくぜ」
「い、いいのですか?」
「構わねえよ。俺が落としたようなもんだからな。まあ、その代わりってわけじゃねえけど、服なんとかしてやるよ」
「え、そんな!わたしが暴れてしまったから…」
「その前に、橋から落ちたからだけどな」
「すみません…」
「別にいいって、何ともなくて良かったな」
「はい、ありがとうございます!」
「んじゃ、ここで話してても身体冷えるだけだし行くとしますか」
ユーリの言葉に「はい!」と少し嬉しそうに返事をした彼女。
歩き出すユーリに遅れまいと後ろをついていく。
きょろきょろと辺りを見渡している彼女が少し気になったが、そんなに下町が珍しいのかとユーリはそのまままっすぐ宿屋へ向かった。
ユーリ達が宿屋まで行く間、とにかくは目立った。
その綺麗なお姫様みたいな容姿、ひらひらとした格好。
それなのに何故か髪から服までびしょ濡れ。
その上、下町の有名人と一緒に歩いている。
これほど目立つものはなかった。
ユーリは道中いろんな人にからかわれ、ちゃかされ、宿屋に着いたころにはもうグッタリだった。
「あんた、どうしたんだいその格好。それに、その可愛子ちゃんは誰だいユーリ。彼女かい?」
「はぁ、どいつもこいつも同じことばっか聞きやがって。違ーよ。こいつは…そういや、まだ名前聞いてなかったな」
「え?あ…、と言います」
「、ね。俺はユーリ、ユーリ・ローウェルだ。んで、こっちは世話になってるこの宿屋の女将さん」
「よろしくね、さん。その格好、この馬鹿が何かやらかしたんだろう?悪いねえ、いつまでもヤンチャが過ぎてね」
「おいおい、俺は橋から落ちてきたこいつを助けただけだぜ。まあ、ちょっと落としたけど」
「落とした!?ちょっと、大丈夫なのかい?怪我はしなかったの?」
「い、いえ大丈夫です。わたしが吃驚して暴れてしまって…」
「そうかい、怪我してなくて安心だよ。それにしても、詰めが甘いねえユーリは」
ユーリと宿屋の女将さんのポンポン進む会話には少し圧倒されていた。
女将さんはユーリに呆れた態度を取っていたかと思うとを奥の部屋へ連れていく。
「取りあえず着替えだね。この汚れた服はきっちり綺麗にしとくからね。シャワー浴びといで!」
と移動しながらマシンガンの如く喋る女将さんに「わたし、自分で洗いますので」というの声は届いていない。
その二人のやりとりを面白そうに見ていたが、「ユーリ、あんたも速く着替えてきなさい!」という声が奥から聞こえてやれやれとその場を後にした。
「少しの間、それを着てなさいな。こんな汚い服で申し訳ないけどねえ」
「いいえ!わたしの為にこんな…。ありがとうございます」
暫くして戻ってきたに、先に戻っていたユーリは目を丸くした。
髪を横で一つにまとめ、下町の格好をした彼女。
とても違和感があった。
「ははっ、もすっかり下町市民だな」
「本当に何から何まで…ありがとうございます」
「気にすんなって、みんなユキみたいな貴族様が珍しいもんだからはしゃいでんだよ」
「そ、そうなのですか?」
ユーリの言葉に不思議そうにが首を傾げていたが
「取りあえず、茶でも飲んで服乾くの待ってようぜ」
というユーリの一言でユーリが座っていた向かいの椅子に腰をかけた。
「は貴族だろ?なんで下町なんかに居たんだ?用事…でもなさそうだったけど」
「実は、今日ちょっと内緒で家から出てきてしまったので。見つからなさそうな所を探していたらいつの間にか…」
「下町に来てたってワケか。そういや、来るとき周り気にしてたもんな。でもそれで橋から落ちてちゃ世話ねーな」
「うう、すみません」
反省したように彼女がペコリと頭を下げた。
ユーリは彼女を間近でみて改めて彼女の育ちの良さが伺えた。
そんな育ちの良いお嬢様が一体何故内緒で家を出たのだろうか。
今までの様子から見て常習犯ではなさそうだし、何か特別な理由でもあるのだろうか。
「さん、お昼ご飯作るからついでに食べて行きな」
いつの間にか宿屋の店主さんが戻って来ていた。
お昼を食べていくように言われた彼女は少し驚いたような顔をする。
「お昼ご飯…?」
「そうさ、まだ食べてないだろう?洋服の方はまだ時間がかかるから、食べていきな」
「で、でも…」
「いいんだよ、気を遣わないで」
そう言ってまたどこかに言ってしまった女将さん。
「ユーリも食べていきな」と、言い残して。
「腹減ってないのか?だったら断ってもよかったんだぞ」
「えっ!?」
「いや、なんか微妙な顔してたからさ」
「い、いえっ!一人で外食をしたことがなかったので……」
「ふーん。ま、さっき婆さんが言ってた通り気を遣う必要なんてないぜ?」
「はい、ありがとうございます」
一人で外食をしたことがないなんていうのは貴族のお嬢様なら普通のことなのかもしれない。
あまり人と接するのも慣れていないようだし、外出が厳しい家なのだろうか。
似たような知り合いなんて居ないユーリには到底わからない世界だった。
「あんまり外出とかさせて貰えない家なのか?」
「いいえ。月に1回許可をいただいています」
ユーリは彼女の言葉に絶句した。
外出は月に一度だけ?
なんなんだその家は。
それは軟禁されていると言ってもいいレベルではないのだろうか。
しかも、このような言い方をするということは彼女にとってこれが普通のことなのだ。
「そんな毎日家族とだけ居るなんて嫌にならねーの?」
「あ、家族は…その、居ないんです。一人暮らしなので」
更にあり得ない言葉を聞き、一瞬何を言われたか理解出来なかった。
一人で住んでいる?
それで外出が月一度だけなんて、厳しい家なんかではない。
これはもう軟禁だ。
「毎日家にこもり切りで飽きねーの?」
「飽きる…?」
「暇だろ?話し相手も居ない」
「毎日食事を運んでくる人がいます」
「1人だけか?でもすぐ帰るだろ?」
「あと、剣の稽古をつけてもらったり、お勉強を見てもらったり…」
彼女から語られる日常にユーリはなんだかやるせない気分になった。
彼女は全くと言っていいほど外の世界を知らなさすぎる。
通常の人が暇と感じることも彼女にとってはその時間が当たり前。
自由がない生活が彼女にとっては当たり前で、疑問すら抱かない。
これほど同情するものはなかった。
「あ、でもわたし一人ではないんですよ。わたしを引き取ってくださった方がいつも様子を見に来てくれるんです」
どこの変態オヤジかと勝手に想像をしてみていたユーリだったが、少しの表情が陰ったのを見逃さなかった。
「どうかしたのか?」とユーリが尋ねると、は少し言いづらそうに話し始めた。
「実は、その方のお仕事が最近とても忙しいみたいで、暫くわたしの所には来ることが出来ないと言われてしまって…」
「本当に忙しいのか微妙だな」
「いえ、とても大変なお仕事をされてるのでそれは仕方がない事なんですが…」
「なんか不味いことでもあんのか?」
「今日は外出許可が出ている日だったのです。でも見張りの方が今日から替わられたみたいで、外に出してくれなくて」
「それでこっそり抜け出してきたってか?結構やり手なお嬢様だな」
「いつもはその方と出かけるので昨日までは外出する気がなかったのですが、出してくれないと出たくなってしまうものですね」
「まあ、いいんじゃねーの?本当は外出していい日だったんだろ?忘れてた見張りが悪い」
きっぱりと言い切ったユーリに少し笑顔になった。
「俺だったらそんな決まり言いつけられたら破ってくれって言われてんのかと思うけどな」
と、冗談ではないが冗談っぽく言うユーリには先ほどよりも砕けた笑顔になっていた。
初めて笑っている所を見たユーリは少し驚いたが、つられて少し表情が緩んだ。
「一人で外に出ても何もすることが無くて、少し寂しかったのですがユーリさんに出会えて良かったです」
「橋から落ちて良かったってか?それは勘弁してくれ」
「す、すみません。そういうことではなくて、えっと、その…」
「冗談だよ、冗談」
そう言ってユーリがからかってみると、思わず二人同じタイミングで笑った。
笑いが治まってくるとがポツリと呟いた。
「こんなに楽しいの、初めて…」
少し寂しそうに言った彼女の言葉が何だか切なかった。。
いつもどんな生活を送っているのかと少し思い浮かべてみたが、切ない想像しか浮かばない。
「そりゃ大袈裟だな」
ヘラヘラと笑うユーリには首を振る。
「ユーリさんも、下町のみなさんも、皆さんとても優しくて温かくて、とても楽しいです。」
「そりゃ、下町の奴らが聞いたら喜ぶな」
「それは、わたしも嬉しいです」
「けど、たかだか下町の日常程度で終わると思うなよ?」
「…?」
「これ以上はあるぜ?絶対にな」
悪戯っぽくウインクしながら言うユーリに目を輝かせる。
なんだか尊敬の様なまなざしを向けられているユーリは少し得意気だ。
「絶対、ですか?」
「ああ、絶対な」
「そうだと、いいです」
がにへっと頼りなさそうに笑ったのを見てユーリは内心ほっと息をついた。
「こんな感じになったけど…綺麗になったかい?」
奥から女将さんが戻ってきた。
その手には元々ユキが着ていた真っ白のドレス。
汚れが完全に落ちたみたいだ。
「わぁ!すごいです!こんなに綺麗になるなんて…!ありがとうございます」
「いいんだよ。そんなに喜んで貰えたら頑張った甲斐があるってもんだ」
「お昼まで御馳走になってしまって…本当にお世話になりっぱなしで」
「いいっていいって!御礼がしたいならまた暇があるときにでも遊びに顔出してくれればいいからさ」
「そ、そんな…!また、来てもいいのですか?」
「さんなら大歓迎さ!下町が華やかになるよ」
宿屋の店主の言葉には只驚くばかりだった。
大きく頷きそうになっただったが、自分を抑えて悲しそうに首を横に振った。
「そう言って下さるのは嬉しいのですが…」
「ま、そういうことなら俺が毎日でも連れてきてやってもいーぜ?婆さん」
「ユ、ユーリさん?」
「そりゃ嬉しいね。ちゃんとエスコートしてやんな!失礼がないようにするんだよ」
「へいへい」
二人の会話に目を丸くしていただったが、ユーリが得意げにウインクをすると彼女は困ったように笑った。
「そういうことだから、どうする?このままどっか行くか?」
思ってもいなかった突然の誘いに彼女は嬉しそうな表情を見せたが、時計の針がさす方向を見て現実に引き戻される。
残念そうにユーリを見る。
「それが、そろそろ帰らないと食事を運んでくれる人が来てしまうので」
「そうか、じゃあまた今度だな。帰るなら送って行く」
「い、いえ!これ以上迷惑をかけるわけには…」
「いーから、いーから。ほら、いくぞ」
「えぇええっ」
ユーリが先に出て行ってしまい、は慌てて女将に一礼して店を出た。
スタスタと貴族街に向かって歩いているユーリを追いかける。
「お、やっと来たか。の家、こっちでいいんだろ?」
「あの、正面からは帰れないのでこっちではないんです」
「ああ、そうだったな。どっから来たんだ?」
「確かあの辺りから出てきました」
「あの辺りって、下町じゃねーか。へえ、ここ抜けると貴族街なのか」
「貴族街というか、わたしの家の敷地に着きます。貴族街に出るにはわたしの家の門を通らないと…」
「にしても、よくこんな道みつけたな。草かき分けて来たのか?」
「はい。本で読んだ物語みたいで少しドキドキしました」
「ただの無法地帯な植物だけでそんなに楽しめるなんてお得な性格だな」
下町の外れまで来たと思ったら植物が生い茂っていて手入れもされていなく、伸びに伸びきった植物で覆われた道なき道を通る二人。
こんな道を通ってまで外に出てきたという事に驚き、その大人しそうな容姿からは想像も付かない行動力にユーリは驚き、少しだけ関心を持った。
育ちが良いのは確かなのだろうが、思考回路は幼いころの下町で育った自分自身と似ているとすら思った。
草むらを抜けると高い塀で囲まれた敷地があって、入れるところが見当たらないと探すユーリ。
がある一部の草を少し除けると、お約束とも言えるような人が通れるくらいに塀に穴が開いていた。
塀を抜けると随分と広い裏庭と思われる場所に出てきた。
一人で住んでいるとは思えない程の家で、その辺の貴族の屋敷より大きい。
そして、遠目からだが表の家の門の方を見るとそこには騎士団が立っているのが見えた。
(騎士団を護衛に就かせられる位金と権力を持った奴が面倒みてんのか…)
咄嗟にそんな分析をして、辺りをよく見渡してみるが確かに先ほどの抜け道がなければ敷地の外に出ることは出来なさそうだった。
ここを通って貴族街に行くには正面の門を通るしかない。
騎士団に見つからないように1階の窓から家の中に入ろうとするユーリだったが、先に家に入ろうとしていたをみて愕然とした。
「おい!なにやってんだよ。そんな格好で…落ちたらどうすんだ!」
なんとドレスを着ているにも関わらず、ユキが家の側に立っている木によじ登っていた。
先ほどの草むらといい、木登りといい、その辺の下町の小僧とやっていることが同じである。
そして、それでドレスが汚れないのが不思議だった。
「1階の窓には鍵がかけられていてわたしには開けられないんです。だから、ここを上ってあそこの窓に飛び乗るしか…」
「…はは、お前意外とってか大分お転婆なんだな」
「初めて言われました!」
「そりゃ、もう少し人と関わったほうがよさそうだ」
ユーリが続いて木に登ろうとするとがそれを止めた。
「送っていくのはここまでで大丈夫です。もうすぐ人が来ます。何だか慌ただしくてすみません」
「そうか、じゃ、また来るわ」
「え?」
ユーリが当たり前の事のように「また来る」というのでは驚いて変な顔をしている。
そんなユキをみて少しだけ笑って右腕をあげると、
「じゃあな」
と言って手を振るユーリ。
が呆然と見ているとユーリはそのまま背を向けて帰ってしまった。
木の上にいるが慌てて部屋の窓に飛び乗って部屋に入る。
まだ食事を運んでくれる騎士は来ていない。
ほっと胸をなで下ろすと、頭に浮かぶのは今日の出来事。
最後に「また来る」といってくれたユーリの顔。
そして、帰っていく彼の後ろ姿。
の胸は高鳴って仕方がなかった。
また来るとは、いつ頃の事だろうか。
1週間先だろうか、それとも明日だろうか。
久しぶりの誰かとの約束に、彼女は嬉しそうにぴょこぴょこと小さく飛び跳ねた。
(2016/07/14)
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