「っ!今日は全校集会よ?私たちも早く体育館へ行くわよ〜」
「はいっ」
ピンク色の短髪の彼女に言われて持っていた携帯をパタンと閉じては彼女の後を追う。
彼女の名前は春野サクラ。
春にこの木ノ葉学園に入学して仲良くなったの友達の一人だった。
がやがやと騒がしい体育館に移動するととサクラは自分のクラスの列に並ぶ。
「あーっ!やっときたー!遅い二人ともー」
「時間通りよ、時間通り」
「おはよう、サクラさん、ちゃん」
「ヒナタおはよー、なんだみんな来てるんじゃん」
「お、おはようございます!ヒナタさ……ちゃん」
先に体育館に居たのは山中いのと日向ヒナタ。
この二人もと同じクラスだ。
いつも大体この4人で学校生活を送っている。
サクラといのは高校に入ってからの付き合いだ。
でもヒナタは違った。
とヒナタは少し前まで主従関係だった。
もちろんそれはヒナタの一族、日向一族しか知らないことであるからサクラもいのもこのことを知らない。
高校に入る少し前まで両親の居ないは日向一族に引き取られ、使用人をしていた。
しかし今は違う。
使用人をしていたということも一族以外誰も知らない。
ヒナタとは遠い遠い親戚ということになっている。
高校に入ってから変に騒がれない為、使用人ということを伏せて生活している。
はもともと誰にでも敬語で話すが、日向一族の者を様付けで呼んでいた。
それが不自然だからと慣れない様子でヒナタのことをちゃん付けで呼ぶ。
『これより全校集会を始めます。生徒会長挨拶』
マイクの音が体育館に響くとさっきまでの騒がしさが嘘のようにシンと静まり返る。
ステージ上へ歩いて行くその姿を見ては少し顔を赤らめる。
彼がマイクに向かって話し始めるとまわりの女子は少しざわついて彼を見惚れるように見つめている。
日向ネジ。
たちより一つ歳は上で、この学園の生徒会長で、ヒナタの従兄で、の婚約者だ。
もちろんネジとが婚約していて一緒に二人で暮らしているということは日向一族しか知らない。
この学園で二人の婚約のことを知っているのは当の本人たちとヒナタだけ。
婚約者が居るなんてとても言えないが周りにバラしたくない、ととネジは極力校内での接触を避けている。
ネジは生徒会長、学園トップの成績を誇り、運動神経も抜群、その顔立ちから彼に思いを寄せている女子は決して少なくはない。
そんな彼が一つ下の一般生徒に声をかけるのはどう考えても不自然だ。
学年が違うので教室も離れているため普通に生活していればそんなに会うことはないのだが…。
絶対的な秘密を抱えて学園生活を送るのはなんだか緊張するが、少し楽しかったりもする。
そう、今日もそんなちょっぴりハラハラすることが起こる。
これが彼女たちの日常だ。
* * * * *
「もう、ネジさん絶対わざと忘れていませんか?」
「さあな、忘れてしまうものは仕方ないだろう?」
「いつもしっかりしてるのにお弁当だけこんなに頻繁に忘れるのですか?」
3時間目と4時間目の間の10分休み。
学校の屋上へと続く階段の最上階、屋上へと出ることができる扉の前にときどき二人は現れる。
人気のないこの階段でネジが家に忘れていったお弁当を渡す。
今日もお弁当を忘れていったネジにそれを渡すために集会が始まる前にが彼にメールを送っていた。
3時間目が終わったらここに来るようにと。
「少しは察してくれてもいいんじゃないのか。お前に会いたいからだよ」
余裕そうにネジがそういうと、は顔を真っ赤にする。
そんな彼女を愛おしそうに抱き寄せた。
家では、別に珍しくもなんともないのに。
少しは慣れているのに……。
場所が違うからかいつも以上に恥ずかしくて、ドキドキして、でもすごく嬉しくて仕方がなかった。
学校でこっそりこうやって時々会ったりはしていたが、抱きしめられるのは初めてだった。
慣れないことはするものではない。
恥ずかしくて、心臓が持たない。
そう、こんなところ…誰かに見られたら………!
がそう言おうとしたとき、物音がしての不安を一気に駆り立てた。
「あ、はは……え、マジ…?お前ら、デキてたのかよ」
ひとつ下の踊り場にばっちりと人影が見えた。
髪を後ろで結い上げて、だるそうに立っているのはと同じクラスの奈良シカマル。
は男子とあまり交流がないため、同じクラスの男子とでさえあまり話したことがない。
同じクラスにいるから最低限の会話を話したり、サクラやいのと一緒にいると少し話したりはするが自分からは声をかけない。
もちろんシカマルもそれは例外ではない。
サクラ、いの、ヒナタなどはシカマルと中学から一緒なのでとても親しそうなのは見て取れる。
しかしシカマルは目つきが悪く、あまり話したことがないは彼がやさしい人なのだということはわかるのだが近づこうともしなかった。
そんなクラスメイトにネジと居る所、しかもあんな所を見られてしまって頭の中は真っ白だ。
「え、あ、あのっ………」
何か言い訳出来ることはないかと必死に考えを巡らせたがごまかせる策はもうなかった。
あわてふためくの顔が泣きそうな顔に変わり始めたのを見たネジが彼女の頭を軽くぽんぽんと叩いた。
大丈夫だ、そう言うように。
「オレとは婚約している。騒がれないように周りには隠しているがな」
「はあ…?婚約……!?………それはたいそうなこったな」
シカマルの登場によって動揺して今にも泣きそうなの様子を見るからに騒がれたくないということは本当らしいと彼はくみ取った。
しかし、高校生で婚約しているなどと周りが知っていたら茶化したり、からかったりする者は少なくないだろう。
しかも、相手は学園で知らない人はいない生徒会長なのだから。
はそれが嫌なのだ、と。
「じゃ、オレは屋上に行くから。邪魔して悪かったな」
別段気にかけない様子でネジたちのすぐ後ろの屋上へと続く扉へ手をかけた。
横目でを伺うと、不安そうな表情が隠しきれない様子だった。
そんな彼女を安心させるように少し柔らかく笑ってみせたが、果たして効果があったのかはわからない。