「、………?いないのか?」
いつもは絶対に自分より早く起きて朝食とお弁当を作ってくれている筈の彼女の姿が見当たらない。
それどころか台所にいた形跡すらない。
不思議に思っての部屋に行ってみると案の定ぐっすりと眠っている彼女の姿が見えた。
ネジは少し驚いたような表情を見せたが、やわらかく微笑んで彼女の枕元に膝をついた。
「寝坊なんて珍しい……」
そう呟いて彼女の髪をそっと撫でる。
疲れているのではないかと、そのまま寝かせてやることにしてそのまま部屋を出た。
きっと起こさなかったことには怒るのだろうが、それもたまにはいいかもしれないとフッと楽しそうに笑った。
朝食は適当にすませて修行に行く支度をすませてからもう一度の部屋に寄る。
先ほどと変わらず起きる気配のない彼女の頭を優しく撫でてネジは部屋を後にする。
「…行ってくる」
* * * * *
「二人とも、そろそろ休憩してお昼にしない?」
「そうですね、そろそろ休憩しましょう」
「ああ、そうだな」
ネジにとってリーとテンテンと3人で修行するのは下忍のころから変わらず、気がつけば当たり前になっていた。
いつになっても休憩する気配のないリーとネジに休憩しようと口うるさく言うのはテンテンの仕事と言ってもいいほどだった。
いつものところに腰を下ろして昼食を用意し始めるリーとテンテン。
ふとテンテンがネジを見て首をかしげた。
「あれ?ネジ、いつものお弁当は?いつもすっごく美味しいお弁当持ってくるじゃない!今日はないの!?」
「珍しいですね。ここ数年絶対といっていいほど持ってきていたのに…」
「ネジのお弁当がないなんて、私の休憩の楽しみが減るじゃない…!」
「人の弁当を勝手に食べるな。まったく……今日は――――」
使用人が寝ていたから起こさずにそのまま来た、とテンテンに説明しようとしたときネジの口が止まった。
どこかを凝視しているネジを見てテンテンがその方向へ振り返ろうとするとネジが立ち上がってそちらへ駆けていく。
「ちょっと、ネジ!?どうしたの?……って、あの子誰?」
「綺麗な方ですね。でも、一般人みたいですが……」
ネジがその少女の前に立つと、その少女は顔を赤くして少し怒ったような表情を見せた。
リーとテンテンにはネジの表情は見えないが、いつにもなく楽しそうなのは見てわかる。
そして、彼女が抱えている大きな重箱が風呂敷に包んであるようなものを見てあっという顔を見せて二人もネジの所へ駆け寄った。
「どうして起こしてくれなかったのですか?」
「が寝坊するなんて珍しいからな」
「答えになっていません!朝食はどうしたのですか?」
「適当にすませた」
「どうしてそんなに楽しそうなんですか!もう……」
「怒っているお前を見るのも久しぶりなのでな」
「ネジ様なんてもう知りませんっ」
「すまない、わざわざそれを届けに来てくれたんだろう?よくここが分かったな」
「ヒナタ様が修行するならここだろうって」
「迷子にはならなかったか?」
「な、なりませんっ!もう、酷いです」
「お前はあまり日向の敷地から出たことがないから大変だっただろう?」
「ヒナタ様に地図を描いて貰ったので…」
「そうか、ありがとう」
ネジがそう言って彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
リーとテンテンはそんなネジに驚いたように顔を見合わせた。
こんなにも素直なネジをあまり見たことがないのだろう。
ネジはが持っている大きな四角いものを受け取ると首をかしげた。
「それにしても、多すぎないか?いつもの3倍はある……」
「あ、それはヒナタ様が一緒に修行している方がいると言っていたので…えと、そちらの方たちにも」
「ホント!?やったーっ!私、ネジのお弁当大好きなの!ありがとうっ」
「ありがとうございます!……それでネジ、そちらの方は?」
「ああ、使用人のだ」
ネジに紹介されて頭をぺこりと下げる。
こういうことが慣れていないのかすこしぎこちない。
「私はテンテンよ。よろしくね」
「僕はロック・リーです!よろしくお願いします、さん!」
「よろしくお願いします」
「ん〜……私、ちゃんの事どこかで見たことあるような気がするんだよねー」
「テンテンもですか?実は僕も…前に一度お会いしているような気がして」
そう言って悩み始める二人にはどうしていいかわからずネジを見る。
しかしネジは難しそうな顔をしてに気づいてくれない。
には全く覚えがなかった。
ここで知らないと言ったら失礼なのではないかと思いながらもそれでも覚えがないものはないのだ。
どうしようと考えを巡らせているとテンテンがひらめいたのか「あーっ!」と声をあげた。
「確か綱手様の五代目火影就任祝いの時に呼ばれた旅芸人の護衛の任務で会ったわ!」
「旅芸人?ああ、なるほど!思い出しましたっ。僕は任務には参加していませんけど、舞台は見ましたから」
「そうよね?ちゃんって確か夕方になると宿を抜け出して朝まで帰って来なかったあのちゃんよね?」
「そ、そうです……」
「でもなんで旅芸人だったちゃんがネジのところで使用人なんてしてるの?」
「ええっと…それは」
「あれ?毎日ちゃん探しに行ってたのってネジじゃなかったっけ?………あ、あ〜オッケー、オッケー、そういうことね〜」
「おい、テンテン何を勝手に想像している」
「ネジも意外と熱いとこあるのね!」
「…………だから会わせたくなかったんだ」
そう言って重いため息をついて顔を手で覆うネジを見てがフォローに出ようと弁解を試みる。
「違うんですっ!ネジ様はえっと、えーっと……私を日向家として貰ってくださったんです!」
「えっ!?それって、ちゃんがネジの許婚とかそういう事?」
「ええええっ!?ち、違います!そんなっ!め、滅相もないです…!」
「、お前は喋るな。話がこじれる」
「うう、すいません…」
申し訳なさそうに引き下がるを見てテンテンは思わず笑いが堪え切れずに肩を揺らしている。
ネジはに呆れたような、それでも優しい表情で頭をぽんぽんと軽くたたいた。
それに対しては困ったように微笑んだ。
「まあ、詳しいことは分からないけどそれはまたじっくり聞かせて貰うとして……」
テンテンが悪戯っぽく笑いながらネジが持っている重箱を指差した。
「はやくお昼食べようよ。私お腹ぺこぺこ」
「フッ…そうだな」
「何よ!その馬鹿にしたような顔ーっ!」
ネジにぷんぷん怒っても当の本人はスタスタと歩き出していてテンテンは怒りながらその後を付いて行く。
リーが少し遅れて二人の仲介に入ってテンテンをたしなめる。
はそんな光景を見て思わず笑みをこぼす。
「あれ?ちゃーん!どうしたの?早くーっ!」
テンテンに呼びかけられてはっとして少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。
もともとネジにお弁当を届けたら帰る予定だったのだ。
寝坊したのでまだ終わっていない仕事もいくつか残っている。
「私、帰ります。まだ仕事も残っていますし…」
「えーっ!?帰っちゃうのー?そんなあ…お弁当の味付けとか聞こうと思ってたのにー」
「すいません、また今度でよければ是非。それでは私は」
「待て、」
帰ろうとしたところをネジに呼び止められる。
なにか用事かと返事をしてみるとネジが手招きしているのが見えた。
「来い、。仕事はいい、どうせたいしたものではないだろう?」
「でも………」
「それより、お前を一人で帰すのが心配だ。修行が終わるまで待っていてくれ、一緒に帰ろう」
その言葉に一瞬は止まったように見えたがすぐに嬉しそうに笑ってネジに駆け寄った。
ああ、これだからあなたはずるい
あなたには適わない、と