「え?」
体育の時間。
男女で別れる体育の時間はわたしの中で唯一の女の子だけの時間。
教室では光くんがいつも一緒に居る。
それが嫌だとか、そういうことは全くない。
いつの間にかそれが当たり前になっているだけ。
光くんが居ても声を掛けてくれるクラスの子はたくさんいる。
でも、やっぱり光くんの前では話せない事もある。
主に恋のお話。
わたしはいつも話すことがないからこのお話になると聞いてることしかできないけど。
「>ちゃんにしか言うてへんの!他の人に言うたら絶対すぐ広まるやん!?」
「あ、うん」
「>ちゃん口堅そうやし。ぜ、絶対他の人に言わんといて!」
今日も、クラスの子から恋の話を打ち明けられた。
何故かわたしはこういう秘密を打ち明けられることが多い。
どうしてなのかは、わからないけど。
「ほんま、ごめんな?なんかわたしウザいな。でも、もうどうしたらいいのかわからないし」
普段はへぇーそうなんだーってくらいの反応しかしないのに、わたしは今までにないくらい動揺していた。
目の前で顔を真っ赤にしながらわたしを見ている彼女が…。
驚くほどに3週間前の自分と同じだったから。
「人に言えんやろ?告白されたわけでもないのに、荒木くんがわたしのこと好きっていうのたまたま聞いて…」
3週間前、昼休みに部長と光くんの会話を聞いてしまったわたし。
光くんがわたしのことを好きだって知って、誰かに言いたくて、でも言えなかった。
すごく、わかる。
自分と重なりすぎてなんだか怖い。
「わたしの事好きとか全然知らんかったから、なんていうか、その…やっぱり気になるやん?」
声は、出せなかった。
でもすかさず頷いた。
そう、そうなの。
やっぱり、気になっちゃうものだよね。
よかった。
そう思っているのがわたしだけじゃなくて。
「なんか、荒木君の事好きに…なってて。でも、なんかそれじゃ、わたし単純すぎやなぁって。ほんまに本気なんかな?って思ったりして」
そう、それ。
好き?なのかどうかはわたしの場合はっきりしてないんだけど。
光くんがわたしのこと好きだって知ってからすごくドキドキするし。
これって、やっぱり好きなのかな?って思ったりするの。
でも、なんか好きってわかってから好きになるのってなんか本当に本当に自分の本心なの?って思ったりして。
「告白とか…わたしからしないと付き合えないのかなとか思ったりもして…。でも告白されたいし」
こ、こくはく…。
そ、それはち蛯チとハードル高いんじゃないかな。
わたしには無理だなぁ。
「>ちゃん、どうしよう。告白されるの待ってるか、自分から告白するか」
あわ、あわわわわわわ。
ど、どうしよう。
ここでわたしに意見を求められちゃった。
普段アドバイスとかしてないし、というか出来ないし。
でも、でも…なんか自分と重なって、なんとかしてあげたい!って気持ちで。
こういうとき、なんて言ったらいいんだろう。
光くんは、なんてアドバイスするかな。
光くん…光くん……
「ひかるくん……」
「え?>ちゃんもしかして財前君に意見聞いてきてくれるん!?」
「え?」
「え?」
「あ、う、うん!そうだね。光くんに聞いてみるのがいいかも!お、男の子の意見!って感じ…?」
「わあああ!おおきに!>ちゃんほんまおおきに!」
「あ、わたしの事やってバレんようにお願いな!面倒でごめん」
って少し申し訳なさそうに、でもすごく嬉しそうな顔をするから…。
とんでもないことを了承しちゃったのに、やっぱり無理とかそんなこと。
絶対、言えないよね。
光くんに、わたしが頭を悩ませていることと同じことを相談するなんて。
わたしの頭を悩ませている、張本人に…。
「あの、あのね?ひとつ、聞いていい?」
「うん。なに?」
「荒木くんのこと、好きだって…なんでそう思ったの?」
「うーん……気づいたらね、荒木君ばっかり見てる自分に気づいたから?」
恥ずかしいやん!って手をバタバタさせてる彼女を見て、ドクンって、なんとも言えない感覚になった。
でも、妙に納得したというか。
その後すぐ目に入ったのは、体育でサッカーをちょっとダルそうにやってる光くんだった。
ああ、やっぱり。
ちゃんと、聞こう。
聞かなきゃ。
ちゃんと、光くんに。
「は?なんや、その面倒な状況」
体育の後の昼休み。
お弁当を机の上に出して、ちょっと食べる前に涼もうと下敷きで風を作っているそんなお昼休み。
「光くんはどうしたほうがいいと思う?」
「……誰に頼まれたんや。面倒くさい」
ドキッってした。
そこで誰に頼まれたか言わないとアドバイスくれないとか言われたらどうしようかと思った。
それに…。
「…すぐ、告ったほうがええと思うけど」
「え、」
「人の気持ちなんて、すぐ変わるやん。そいつがまだ好きなうちに告って付き合った方がええと思うけど」
一瞬、鼻がツンとした。
目がちょっと熱くなって、視界がちょっとだけぼやけた。
だけど、一瞬で収まった。
「うん、そうだね」ってやっとそれだけ出てきた。
どうしようもなく切なかった。
だって、わたしに言ってるみたいだったから。
「お前の事いつまでも好きで居るわけがない」って、言ってるように感じたから。
もちろんわたしの事として言った事じゃないのは分かってる。
光くん、わたしが光くんの気持ち知ってるってこと知らないし。
でも、だからこそ、そのことを知らない光くんが何気なく普通に言った事だから。
すごく、切ない。
なんだ、やっぱり。
わたしは光くんの事が好きなんだね。
だって、パッと見て、すぐ光くんを見つけられるよ?
光くんと居ると、すごくドキドキするよ?
でも、一緒に居るとすごく楽しい気持ちだよ?
安心してたんだ。
光くんはずっと一緒に居てくれて、わたしの気持ちの整理がつくまで待っててくれるって。
そうしたら、いつか付き合って、恋人になって…って。
光くんがわたしの事をずっと好きな保証はどこにもないのにね。
もしかしたら、もう別に好きな人が居てもおかしくないのにね。
「>?」
「あ、うん。ありがとう。とても参考になりました!」
「嘘や。ていうか、お前に参考になることはなにひとつないのは知ってるで」
ううん。
そんなことないよ。
全然、ないよ。