ドクン、ドクンって心臓がすごく五月蠅い。
ねえ、だって今。
なんて言った?
「せやから、今に好きや。とか言うても絶対混乱するし。そもそもそういうの考えて無いんスよあいつは」
うん、いますっごく混乱してるよ。
そういうのって?そういうのっていうのは?
恋愛?
好き?
光くんが、わたしのこと…好き?
ど、どうなっているのか頭が追いつきません!
「あ、ー。あれ、財前くん探しに行ったんやないの?」
「う、うん。見つからなかったから大人しく戻ってきちゃった」
お昼休み、いつも通り光くんと一緒にご飯を食べて、トイレに行ってる隙に光くんが居なくなってて。
探しに行ったら部長と話してて、部長を見たらつい反射的に隠れちゃって。
そしたらさっきの話が聞こえてきて、混乱して、逃げてきた……。
好き。
好きや。
光くんはわたしのことが好きや。
好きや。
さっきの好きやが頭の中でリピートしてる。
頭おかしくなりそう。
「あ、財前くん帰ってきたやん」
「え!」
ど、どどどどうしよう。
恥ずかしくて光くんの顔を見れる気がしない。
知らなかった。
だって、光くんそんな素振り全然……して、ないよね?
光くんに好きな人が居るってことだけでも吃驚だよ。
わたしのことが好きだって、どうしよう。
誰かに好きになって貰ったのなんて、初めてで。
告白なんてされたことないし、好きだなんて…。
「、これ今日の練習メニュー」
教室に入ってきてまっすぐわたしのところに来て練習メニューの紙を差し出してくる。
ねえ、光くんはどうしてそんなに平然としていられるの。
わたしはまともに顔も見れないよ?
顔が熱い。心臓が五月蠅くて、体温が急上昇してるのがわかる。
走ってもいないのにアップが終わった後くらい熱い。
「あ、ありがとう」
わたしも平然を装わなきゃ。
いつも通り、いつも通りに。
…いつも通りが思い出せない。
ここはわたしじゃなくて光くんがテンパる場面なはずなのに。
あ、でも光くんはわたしに聞かれてること知らないんだ。
じゃあ、どうしよう。
これって聞いてたことを言ったほうがいいの?
でもでも、光くんはわたしが混乱するから言わないでおいてくれてるんだよね?
じゃあ言っちゃったら意味ないかも。
あ、でもでも、もうわたしが知っちゃったんだからそれも意味ないかも。
じゃあ、結局どうすればいいのかネ?
つ、付き合う?
そもそもわたし光くんのこと好き?
あ、ちょっと待って、そもそも好きってなに?
好きって……
「ねえ、光くん。好きって……」
「は?」
「恋って、なにかな」
わたし、わたし…。
なに言ってるんだろう。
目の前には今までに見たことないくらい難しい顔をした光くん。
眉間に皺。
なに言うてんのやこいつって顔で見てる。
「ご、ごめん。変なこと聞いて。わたし、そういうのよく分からなくって」
「……別に今わからなくても、そのうちわかるようになる」
「や、やだ!わかりたい、今わかりたいよ」
「じゃあ、小春先輩かユウジ先輩にでも聞けばええやん。俺はそういうの専門外や」
それだけ言ってふいっと顔を逸らされてしまった。
どうしよう、変に思われたかな。
でも、でもね。
わたしもそういうの専門外だよ。
「あ、あのね、光くん。」
「なんや」
「光くんは、誰かと付き合いたいって思う?彼女欲しいって思う?」
「……別に、いまはいい」
返ってきた返事にほっとした。
「わたしも」って言ったら横目でこっちを見て少し悪戯っぽく笑った。
それにすごく安心してしまう。
でも、やっぱり1時間前と同じようにはいられなくて、すごく混乱してるんだと思う。
光くんにさっきのことを話すこともできなくて。
なんか、すごくドキドキしちゃって。
いっぱい、いっぱい考えてみてもわたしが光くんのこと好きなのかなんてわからなくて。
だから、さっきの返事にほっとしたのかな。
わからないことばっかりで。
でも、光くんがわたしのこと好きだっていうはわかってて。
なんか、変だ。
変だ。