なんでこんなことになってんのやろ。

「光くん早く早くー!そこじゃ写らないよ」
「ほら、光ー」

プリクラは別に初めてやない。
前にテニス部の人に連れられてぎゅーぎゅーで撮ったことあるし、謙也さんとも撮った。
でも、そのときは居なかった。

「光くん、どうしたの?プリクラ嫌だった?」

こいつは居なかった。

「いや、別に…」
「じゃあもっとこっちこっち」

の手が伸びてきて俺をグイッと引っ張った。
ちょお、顔近い。
女子特有の制汗剤の香りがふわっと香る。
と、プリクラ……

「わたし男の子とプリクラ撮るの初めて!」
「ほんまか!浪速のダブルストリオで初プリやなー」
「浪速のダブルストリオて…ネーミングセンス無さすぎや謙也さん」

なんやて!?とムキになってるおまけも若干居るけど。

夏休み最終日、部活帰り。
元は謙也さんがの携帯に貼ってあるプリクラを見たのが始まりだった。
は携帯の裏側に友達と撮ったプリクラとかテニス部の人のプリクラを貼ってる。
前にぎゅーぎゅーでテニス部の人と撮ったのも、謙也さんと撮ったのもにやったらその場ですぐ携帯に貼ってた。

謙也さんがそれを見てなんかプリクラの話になって、何故かそのまま撮りに行くことになった。
3人でっていうのも微妙…とか思っとったけど、正直謙也さんが居って良かったと思った。

撮影スペース、初めて入った訳やないのになんか狭く感じる。
もっと大勢で撮ったこともあるのに、狭い。
近い。
こんなに近づいてたか?
の髪が頬にあたってくすぐったい。

さっき引っ張られた腕がまだに捕まってる。
別に逃げたりせんて。

ああ、なんか色々ヤバイ。
暑いし、顔赤くなってるとこ撮られるのだけは避けたい。
平常心、平常心。



パシャッっとシャッター音がしてやっと解放される。

「あ、あっつい……」
「ただでさえ暑いのに密集してたからなー」
「わー外が涼しいです謙也先輩」
「ほんまやー天国やー」

この二人もネんというか、日に日に仲良くなってるけど…不思議なくらい嫉妬しなくなった。
仲はええけど、どう見ても兄妹やし。
なにしろお互いその気がない。
なんか、ほっとする。

落書きスペースに移動して騒がしく落書き。
謙也さん、ほんまに浪速のダブルストリオ書いてるし。
あーでもないこーでもないと言い合っているときにが突然話を変えた。

「そういえば、光くんすっごくいい匂いした!」

は?
こいつはいきなり何を言い出すんや。
いい匂いて…いい匂いて……

「スプレー?」
「あーいや、シート」
「わたし、あの匂い好き」

好き、て。
だからお前はなんでそういうことをさらっと言うんや。
ムカツク。

って、謙也さんなにが魅惑の香り男や。
やっぱネーミングセンスなさすぎ…。

「楽しかったね!夏休み最後の思い出」
「疲れたわ。謙也さん居るとほんま疲れる」
「でも光くん楽しそうだったよ?ほら、この顔!」
「この顔が楽しそうに見えるんか、どんな目してるんお前」

帰り道、謙也さんと別れてとふたりだけ。
さっき撮ったプリクラの顔がどうとか、いつもの会話。

俺が小馬鹿にしても首を横に振ってまた締りのない笑顔。

「光くんが無表情じゃないもん。すっごく楽しかったね!」

失礼な奴やなほんまに。
でもなんか…なんか納得してる自分が居る。
楽しかったと言われて嬉しい自分も居て、なんか見透かされてるみたいで。
やっぱ、ムカツク。

、プリクラ撮ってるときなんかお前からも結構匂いしてきたんやけど」
「え?ああ、あれはスプレーだよ」
「汗?」
「えええ!あ、汗臭かった!?ご、ごめんねっ」

少しからかってやる。ムカついたから。
「もっと早く言ってよ!汗臭いまま歩いてたよ!?」
とか言って騒いでるの額をつんとつついて「嘘や」って言うたらぽかぽかと叩かれた。
こうやってると、仲良さそうに見えるんやろか。
恋人みたいに見えるやろか。

いつも一緒に居るけど、手も繋いだことない。
近くに居るけど、必要以上にくっつかない。
どこまで踏み込んでいいのかわからない。

何が良くて、何がダメなのか分からなくなってくるこの距離。

俺のこと見透かしてるようなこと言うならいっそのこと全部、全部見透かしてくれたらええのに。
お前がその気にならんとなんも始まらないやん。

少し、少しでええから。
気づけアホ。

あと一歩。

あと一歩踏み込んだら、なんか変わるんやろか。

わからない

一歩の距離がわからない

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